これぞ元祖・「丸暗記不要」主義!~宮崎尊著『宮崎英文解釈講義の実況中継』(語学春秋社)

宮崎尊著『宮崎英文解釈講義の実況中継』(語学春秋社)

『宮崎英文解釈講義の実況中継・上』
1994年7月15日発売 A5判

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語学春秋社
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『宮崎英文解釈講義の実況中継・下』
1994年11月1日発売 A5判

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語学春秋社
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対象→文法の基礎は学習したが長文が苦手な人

暗記英文は30でいい

宮崎尊師(現・東進ハイスクール講師)による読みやすい英文読解の参考書です。

冒頭でいきなり尊先生はぶちかましてくれます。

「構文はいくつ覚えればいいか?」とよく質問される。700、150、365なんて本があるけど、そんなに覚えられるわけない。
例文集を書いた先生に「○番の英文って何でしたっけ?」と意地悪な質問をしたくなるw……というのです。

この本では覚えるべき英文を「まとめて、まとめて30程度」まで絞って、「基本英文30」として提示されています。

いくらたくさん英文を覚えたって、使えなきゃしょうがない。
暗記することは少なくていい。その代わり、ちゃんと理解して確実に使える知識にすること――。

早くも宮崎尊イズムが全開です。

ダイアグラムを使って視覚的に英文を分析

上巻では「和訳問題」で、1文ずつじっくり英語を読む方法を学びます。

ここでも宮崎尊イズムが炸裂。

・文法用語を必要以上に使わない
・読解の規則は最低限にする
・でも精密に英文を分析する
・ダイアグラムを使って視覚的に英文をとらえる

英文を読むのにあまり細かい文法用語はいらない(と言っても、「分詞構文」や「関係代名詞」ぐらいの用語は出てきます)。それよりも、もっと大事なことがあるだろ、というわけです。

「接続詞の分析」「比較の構造」「英文が長くなる仕組み」「主語・述語関係の発見」といった英語を読むうえで本当に重要なところを、苦手な人にもわかりやすく講義します。

そして、この本の最大の特徴はダイアグラム(英文の分析図)による視覚的な英文構造の解説です。

今でこそ英文の構造を図解する参考書は珍しくありませんし、大昔からこういう方法はありました。
しかし尊先生は細かく品詞分解するのではなく、視覚的に英文をとらえる方法としてダイヤグラムを使っていて、英語が苦手な人にもわかりやすい方法を提示しています。

また、比較文の構造や基本語のイメージなども図解で解説していくのが特徴です。これも丸暗記をさせない宮崎尊イズム。

図解は分かったような気になるだけで終わってしまう危険性もあるのですが、尊先生の図解は文字だけでは分からないモノを視覚化してくれる鮮やかさがあります。

現代でも通用する「情報の検索」という視点

下巻では「内容一致問題」「総合問題」を取り扱います。
いよいよ具体的な長文問題の解き方へと講義が進んでいきます。

そして、ここがこの本で最も賛否が分かれるところだと思うのですが、

選択肢を見ただけでもし解けるようなものがあったら,もう本文を見ないで解いていって構わない

下巻・6ページより引用

本文を見なくても内容一致問題が解ける!? というといかにも邪道な感じですね。もちろん、解けるわけがありませんw

ただ、選択肢の中には「常識的に考えてこれはないだろ」というものもあるわけです。それはもう本文を読まなくても切っちゃっていい、ということなんですね。

尊先生はこんなたとえ話をしています。
電話帳で電話番号を調べる時に、表紙から順に読んでいく人はいない。だいたいこの辺に載ってるだろうと当たりを付けて探すだろう。
長文問題を解くというのはそれと同じようなもので、「情報の検索」なんだ、というのです。

これは、まさに現代の共通テストやTOEICで求められている能力です。

・英文はメリハリをつけて読め!
・問題を解く時は知識を総動員しろ!

一見、邪道なようですが、実はかなり時代を先取りした考え方なんですね。

何よりも読んで面白い!

そして、一番の推しポイントは「読んで面白い」というところです。

今は知りませんが、この当時の「実況中継」は実際に予備校の教卓にテープレコーダーを置いて、講義を録音したものを編集していたそうです。
この本も駿優予備学校での講義が再現されています。
だから、その講師のリアルな肉声が伝わってくるようで非常に面白いんです。

約30年前の本だから当然、出てくる英文や問題はかなり古いし、解説も古いわけですが、「環境問題」「男女間の賃金格差」「ナショナリズム」といった、今でも通用するような「古くて新しい話題」がバンバン出てきます。

また、尊先生の雑談も非常に興味深く、文化論やナショナリズム論についてはかなりの熱量で語っています。ちょっとした冗談で滑っているのはご愛敬w

「予備校界のレジェンドの講義ってこういうものだったんだ」と体感できる貴重な参考書です。

なお、名著と言えるこの本ですが、長らく重版されていないようで、このままだと書店から消える可能性も……。気になる方はお早めに購入することをおすすめします。

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