【元祖】山口俊治 英文法講義の実況中継【講義本】

おすすめ参考書

今では受験生の定番になっている「実況中継」シリーズの元祖と言えば、『山口俊治 英文法講義の実況中継』(語学春秋社)。

「学習参考書の世界に革命を起こした」といっても大げさではない、歴史に残る名著です。

発行部数はなんと300万部以上。英文法の参考書としては異例のベストセラーと言えるでしょう。

初版の発売は1985年で、阪神タイガースが日本一になった年です。

多くの人に読み継がれているこの不朽の名著についてご紹介したいと思います。

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「実況中継」の大ブームを起こした

この「実況中継」のアイディアは、山口先生の教え子から生まれたと言われます。

ある受験生が、山口先生の英文法の授業を録音して、一字一句すべてノートに書き起こしたものを辞書代わりに使って勉強したところ、春には偏差値35だったのが秋には70まで上がっていたというエピソードが紹介されています。

授業中の雑談やジョークも漏らさずに書き起こしたノートを見て、これは参考書にできるのではないかと考えたというのが「実況中継」の始まりになっています。

このように「実況中継」の最大の特徴は予備校の講義を書き起こして、書籍で再現したというところにあります。

1985年と言えば、まだ大手予備校の衛星放送授業も始まっていない時代です。

大手予備校で行われている授業は門外不出で、地方在住の受験生にとっては手の届かない「秘術」のようなものでした。

そこに登場したのが『英文法講義の実況中継』です。

従来の参考書にはない山口先生ならではの解説、読みやすい講義、手書き文字での板書の再現(※現在の版では板書は活字になっている)、随所にはさまれる雑談やジョーク――。

もちろん、この本より前にも「わかりやすい参考書」はありましたし、「しゃべり口調で解説した参考書」も「予備校のノウハウを載せた参考書」もありました。

でも、「実況中継」の予備校の授業をそのまま再現したというコンセプトは斬新で、受験生に強く支持されました。

その後、「実況中継」の大ヒットによって他社も類似商品を出してきます。

某社が「実況放送」という明らかな丸パクリ本を出しましたが、さすがに法的に問題があったのかすぐ絶版にw

そんなこともありましたが、「講義本」というジャンルは英語だけでなく受験界全体に浸透しました。

最先端の予備校の授業を参考書に

『英文法講義の実況中継』の特長は、従来の英文法の参考書ではわかりにくかった「英語の土台」となる考え方を教えてくれるところにありました。

「暗記」だけではなく「理解」を重視していて、受験生が誤解しがちなポイントをていねいに解き明かしています。

山口先生は受験生の盲点となるところを知り尽くしていて、引っ掛かりやすいポイントを的確に解説してくれるんですね。

特に、この本は「nexus(ネクサス)」という概念を広めたことで知られています。

nexusというのは、文の一部に潜んでいる「主語+述語動詞」の関係のことです。

例えば、第5文型SVOCのOとCは「主語+述語動詞」の関係にあるというようなことですね。

今となってはどの参考書にも書かれているようなことですが、それはのちに出た参考書が「実況中継」の影響を受けているからで、当時としては斬新なものだったのです。

また、のちに発売された改訂版(『NEW 山口英文法講義の実況中継』)では語法などの講義が追加されており、新しい時代の受験英語にもいち早く対応しています。

この先進性によって、40年近く前に出た参考書なのに現在の受験でも十分に使えるものとなっているわけです。

このように『英文法講義の実況中継』はただ読みやすい、わかりやすい講義本というだけではありませんでした。

予備校で教える最新情報が詰まっている参考書で、それがこの本が300万部を超えるベストセラーになった大きな理由だったんですね。

山口俊治と伊藤和夫

山口俊治先生と言えば、伊藤和夫先生とも交流があったことが知られています。

「あの湯河原は大きかったですね」と伊藤和夫氏がにっこり笑いながら述懐される。「まったくですね」と応じる私。この会話の意味がわかるのは伊藤氏と私だけしかいない。昨年の夏、小康を得ておられた先生とお茶の水で久しぶりに懇談する機会があったが、「湯河原」と言うだけでピーンとくるのは、そこに私たち二人に共通する英語指導の原点があったからである。30数年前、あらゆる資料を携えて湯河原の宿に滞在し、それぞれの思いを話し交わしたひとつの結論として、現代英文の読解指導の基盤となる体系を数日がかりで一気に構築することになったのだった。その詳細な体系リストは包括的な内容を含み、当時としては独自なものと自負できるもので、これこそがその後の私たちの基盤として大きな役割を果たしたと両者とも認めているのである(以下略)。
山口俊治「現代英語教育」研究社、1997年5月号より

この湯河原で構築された「体系」の一部が、その後の両先生の著作(※『総合英文読解ゼミ(山口)』や『英文解釈教室(伊藤)』など)に反映され、結実したのである。

山口先生と伊藤先生が若き日に合宿をして、英文読解の体系を作り上げたというエピソードです。

そのため、両者の英文読解法は共通した考え方を持っているわけです。

伊藤先生の参考書がリクツっぽくてカタい印象があるのに対して、山口先生は「実況中継」のように親しみやすい印象があります。

根本的な考え方は近くても、参考書には違いが出ているのが面白いところですね。

40年前の本だけど今でも使えるのか?

さて、この「実況中継」は40年近く前に出た本ですが、今でも使えるのか?という疑問があると思います。

まずこの本が発売された当時の受験生は、英文法を学校などでかなり勉強していた世代なので、「これも受験生なら勉強したことがあるはずですが……」という前提で進んでいきます。

ところが、今は学校でも英文法をちゃんと教わることは少ないので、想定している読者層が異なることになります。

ただ、それでもこの本には今でも価値があると思います。

それはこの本がただ英文法の知識を与えるだけの本ではなく、「英文を読むときのアタマの働かせ方」を教えてくれる本だからです。

「ネクステ」などの英文法問題集で勉強していると、文法事項をただ丸暗記するだけで終わってしまう危険性があります。

その点、「実況中継」では英文法の根本的な考え方を教えてくれるので、丸暗記で終わらず、しかも読解にも役立つ知識が身につきます

特に、「比較」などの受験生が理解しづらいところを、基本から筋道立てて解説していく鮮やかさは一見の価値ありです。

もちろん今では他にもいい本が出ているので、「実況中継」じゃなきゃダメということはないです。

でも、英文法を「理解」するのには今でも有力な参考書と言えるでしょう(ある程度は英文法を勉強していないとついていくのは難しいかもしれませんが)。

何より、こんなに「読んで面白い」英文法の参考書は今でもなかなかないと思います。

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