鈴木長十・伊藤和夫著『新・基本英文700選〈新装版〉』が発売されました。
一時期、「700選」は品切れ状態になっていたのですが、新装版が発売されて一安心といったところ。
従来はCD付きでしたが、新装版は音声ダウンロードになっただけで内容の変更はありません。
この「基本英文700選」は1968年に駿台文庫が最初に出した参考書だそうで、のちに例文や解説を一部改訂して『新・基本英文700選』として販売されました。
なんと50年以上も受験生に使われていることになります。
その一方でなにかと批判されることも多かった「700選」ですが、今この時代にどんな意味があるのかを考えたいと思います。
受験生の必需品だった「700選」
「700選」といえば、かつて(1990年代ぐらいまで)は英作文の暗記例文集の定番として有名でした。
80年代までは今ほど英作文の参考書が出てなかったこともあり、多くの受験生がこの本を暗記した(暗記させられた)ものです。
元代々木ゼミナールの鬼塚幹彦先生は「700選ぐらい丸暗記しているのが当然であって……」と言い放ち、受講生を戦慄させたそうですw
ただ、700という英文の量に挫折する者も数知れず……。
伊藤和夫師もそういう受験生の苦しみは把握していたようで、「あの本を全部覚えた人はひとりもいないとも聞きました」(『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫)という声を取り上げています(「少なくとも大学入試の当日には全部覚えていた人も,僕は大勢知っているよ」と反論していますが)。
「700選の丸暗記」というのは、当時の受験生にとっても苦痛で、「受験勉強の暗い思い出」を象徴するようなものだったんですね。
「700選」批判
「700選」への批判は「こんなに覚えられない!」というだけではありません。
よく指摘されるのは英文の古さ、不自然さです。
「古さ」については元が1968年に出たものである以上、仕方がないことではあります。
著者の伊藤和夫師自身も、「書く英語の素材にできるのは,過去30年つまり1960年(※引用者註・この文章が書かれた時点から見た約30年前)からこちらの英語ではないだろうか」(『伊藤和夫の英語学習法』)と書いています。
そういう意味では、伊藤師の死後20年以上が経過した現代において「700選」を「書く英語の素材」とするのはあまりよくないと言えるでしょう。
ただ、それじゃ「700選」の英語を素材にして英作文の問題で書いたら、大学入試で減点されたりするのかというのは気になるところ。
伊藤師はこんなことも書いています。「英作文の答は,古くてもいい,ぎこちなくてもいい,英米人が読んで分かり,日本文の意味の主要部分が相手に伝わりさえすればよいというのが僕の考えだ」(『伊藤和夫の英語学習法』)。
英語がお得意な皆様は「こんな英文は古い、不自然だ」とか「ネイティブはこんな言い方をしない」などとおっしゃいますが、受験生の英作文というのはたいていそのはるか手前のレベル(単語のスペルが間違ってるとか単純な文法のミスとか)での勝負なんじゃないでしょうか。
英作文だけではない、「700選」の価値
とはいえ、今では優れた英作文の参考書も例文集もたくさん出ています。
古い「700選」をあえて英作文の例文集として使う必要は全くありません。
では、なぜ今、「700選」なのか?
実は、この本の最初に書かれている「本書の特長と利用法」にヒントがあるんですね。
「英文和訳と和文英訳の基本となる英文を厳選しました」
つまり、英文和訳・和文英訳の「基本」を示したのが「700選」で、これを英作文の頻出例文集だと思って丸暗記することがそもそも勘違いだったのです。
今となっては、むしろ「700選」は英文構文の定着のための本と割り切って考えるべきかもしれません。そうすれば今でも十分使い道があるのではないでしょうか。
「700選」の大きな特長と言えるのは、「配列の妙」です。
「本書の特長」にも「英文は文法・構文の秩序を重視し,理解しやすく,覚えやすい配列にしてあります」と書かれています。
「700選」は駿台の鈴木長十師と伊藤和夫師の共著ということになっていますが、実際には伊藤和夫師の「思想」が強く出ているんですね。
その「思想」が表れているのが例文の配列で、ここに伊藤和夫師のイイタイコトが詰め込まれています。
何でもシステマティックじゃないと気が済まない伊藤和夫師ともあろうお方が、ただの「入試によく出る暗記例文集」のような軽薄なものを出すはずがないのです。
それでは、「700選」に込められた伊藤和夫師の「思想」とは何なのか?
……といったところで長くなりましたので続きは次回へ。
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