前回に引き続き、『新・基本英文700選〈新装版〉』についてのお話です。
先頃、訃報が伝えられた駿台の表三郎師は、「構文は数でもってあらわれるものではありません」と「700選」を皮肉っていました。
構文が700個なんてだれが決めたんだ、その人がむずかしいと思ったものを集めただけじゃないか、というわけです。
これはある意味で当たっていて、確かに「700選」の英文の選定や配列は伊藤師の思想が強いものになっています。
そう、言ってみれば、「700選」とは伊藤和夫ワールドそのものなのです。
※長くなるので、忙しい方は【まとめ】だけ読んでくださいw
「700選」と幻の教材「英文法教本B」
前回、「700選の配列に伊藤和夫師のイイタイコトが詰め込まれている」と書きました。
では「700選」はどのような配列になっているのでしょうか。
まずこちらをご覧ください。
『新・基本英文700選』の目次です。
続いてこちらをご覧ください。
これは『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』(駿台文庫)の巻末にある「文法篇」の目次です。
「700選」の前半と項目の立て方がかなり似ていることがわかります。
「文法篇」は駿台の「英文法教本B」という教材が元になっているのですが、この「英文法教本B」は伊藤師が作った教材でありながら、教えられる講師が少なく、わずかな期間で廃止されたそうです。1
伊藤師はこの「英文法教本B」に強い愛着を持っていたようで、こうして「ビジュアル」の付録という形で後世に残したのです。
「ビジュアル」という英文解釈の参考書は、伊藤師の体系性を表面には出さず、自然と英語の読み方を身につけられるように作られています。
そして、その最後に「君たちが勉強してきた英文には、実はこんな『体系』が隠されていたんだよ」と種明かしするのが「文法篇」でした。
(伊藤師のアタマの中に入っている「体系」だから、他の講師が教えにくかったというのも当たり前の話ではあります)
その「文法篇」と「700選」の項目の立て方が共通しているということは、「700選」にも伊藤和夫師の考える「体系」が隠されているわけですね。
伊藤師が書く参考書の多くは、それぞれジャンルは違ってもこの「体系」が仕込まれているのです。
そして、実は「700選」こそが伊藤和夫師の「体系」をぎゅっと詰め込んだ一冊なのではないか。
これが「700選」=伊藤和夫ワールドだと思う理由です。
「700選」の使い方=伊藤和夫ワールドを理解する!
これからご提案する「700選」の使い方はかなり独特なものだと思われるかもしれません。
まず英文を読みます。
1:My house is only five minutes’ walk from the station.
「私の家は駅から歩いてわずか5分のところです」
たったこれだけの英文なので、「なんだ、簡単じゃないか」と軽く流してしまうかもしれません。
しかし、伊藤師の参考書を読んだことのある人ならば、この英文は全く違って見えてきます。
My houseは最初に出てくる前置詞のない名詞だから主語と感じられる。isは動詞。walkは「歩く」……でも1つの文に動詞が2つ出てくるのはおかしいし、前とのつながりで名詞なのではないか。辞書を引いてみます。するとやっぱり「道のり」という意味の名詞として使われることがわかります。
このように、「伊藤師だったらこの英文をどう解説するだろうか?」と考える。伊藤師の声まで聴こえてくるようになれば完璧ですw
そして、その手掛かりとなるのが太字で書かれた部分です。
太字になっているところがこの英文のポイントで、これこそが伊藤師の「イイタイコト」のはずなのです。
ただ、「700選」は英文と訳、あとはちょっとだけコメントが書いてあるだけで解説はないので、「イイタイコト」は自分で考えるしかありません。
この「自分で考える」という過程が大事なんですね。
「太字」を見て伊藤師の「イイタイコト」を考え、スッとわかればそれでよし。
わからなければ、辞書を引いたり、伊藤師の参考書を読み直したり、『ロイヤル英文法』のような文法書を読んだりして考える。
伊藤師の参考書で言えば、前述の『ビジュアル英文解釈』のほかに、『英語構文詳解〈新装版〉』(駿台文庫)が参考になるのではないかと思います。
そして、すべての英文をちゃんと日本語に訳せるようになるまで繰り返します。
この作業によって、伊藤師の考える「体系」が自分のものになり、まさに「英文和訳や和文英訳の基本」が身についたことになるのです。
これで700の英文すべてが理解できるようになれば「基本」は完成。あとは入試に対応するための応用問題ということになります。
もう「伊藤和夫免許皆伝」と言ってもいいでしょうw
【提案】『「700選」徹底解明』という本がほしい
かつて「700選」は駿台の指定副教材で、駿台のテキストは「構文詳解」「英頻」「700選」とリンクしているという特長がありました。
だから「700選」の解説がほとんどなくても学習効果は高かったわけです(駿台生にとっては)。
もちろんこれは伊藤師が健在だった昔の話。今の駿台ではそんなことはやっていません。
ただ、今でも「700選」は書店に並んでるのですから、もうそろそろ「700選」の秘伝を世間に公開してもいいころなんじゃないでしょうか?
駿台生や伊藤和夫師の参考書で勉強した人なら、英文のポイントがわかるように作られていますが、なんでも親切ていねいなことが求められる今の時代、解説がほとんどない「700選」がとっつきにくいことは間違いありません。
だからこそ、なぜこういう英文の配列なのかを解説し、「700選」と伊藤和夫師の「体系」を解き明かす『「700選」徹底解明』という本を出してほしいと思います。
駿台には伊藤師の直弟子ともいえる先生がいらっしゃるわけですから、今のうちに伊藤師の教えを形に残しておいてほしいのです。
そうすれば、批判を浴び続けた稀代の名著『基本英文700選』の寿命がもっと伸びると思うのですが……。駿台文庫様、いかがですか?
【まとめ】700選の使い方のご提案
・「700選」は英文和訳・和文英訳の基本となる英文を、伊藤和夫師の「体系」にしたがって配列したもの
(伊藤和夫師の参考書をやってから挑むと英文のポイントがわかる)
・英文の太字の部分と訳を手掛かりに、この英文のポイントは何かを考える
・わからない文法事項、表現があれば辞書や伊藤和夫師の参考書、分厚い文法書などで調べる
・ちゃんと構造を理解して、和訳できるようになるまで繰り返す
・せっかく音声ダウンロードがついているので英文を読むときに聴き、何度も音読する
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